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3.交換の形式的再定義
3.5.互酬の再定義:ネーション


 前回の国家的主体に続き、今回はネーションを再定義する。

 共同的主体における物質的形式は身体であり、身体によって規定される主体的形式が個人である。この身体は、共同的主体を構成する形式であって、共同的主体から構成される形式ではない。身体は、共同的主体の構成に先立って、ひとつの物質的形式であり、それはひとつの生体として、生殖という形式によって規定されている。この生殖は、社会的地平から構成される形式ではない。

 一方、共同的主体を構成する言明的形式は名づけである。物質的形式における身体と同様に、言明的形式における名づけを規定する形式は、共同的主体から構成されるものではない。それは、ひとつの概念として、同一性という形式によって規定されている。同一性もまた、社会的地平から構成される形式ではない。


 5.1. 身体は生殖によって規定される。
 5.2. 名づけは同一性によって規定される。
 5.3. 生殖と同一性は、社会的地平から構成される形式ではない。


 国家と国民は、国家的主体の主体的再構成である。国家的主体は共同的主体の、占拠による地理的位置づけによって構成される。つまり、国家的主体という形式の成立は、占拠と、生殖および同一性との一致を意味する。このとき、国家的主体という形式を規定する、占拠、および生殖と同一性を、国民と国家から再構成したものが、ネーションである。そして、その主体的な再構成が、柄谷行人のいうところの、宗教(世界宗教)と民族という形式である。


 5.4. ネーションとは、国民と国家によって再構成された、占拠、生殖、同一性である。
 5.5. 宗教と民族は、ネーションの主体的再構成である。


 国家的主体を構成する形式としては、生殖と同一性は、占拠に先立っている。しかし、国民と国家を構成するものとして、それらのいずれかが先行するかどうか、あるいは優位にあるかどうかは問題ではない。言い換えれば、ネーションにおいては、それらは形式的に区別されることなく、ただ、国民と国家を構成する諸形式として再構成されているだけである。

 以上より、互酬が再定義される。


 5.6. 互酬とは、ネーションを主体とし、貨幣と商品の物質的形式によって規定される交換である。


 このとき、ネーションは国民と国家によって再構成された形式であって、それ自体が共同的主体ではないことに注意しなくてはならない。つまり、ネーションは共同的主体から構成されているが、国家的主体の成立に先立つものではない。