『世界共和国へ』を読む

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4.形式的唯物論の完成 4.5.形式的唯物論とは何か(4) 『世界共和国へ』において柄谷行人は、現実を互酬、再分配、商品交換に基づく資本=ネーション=国家に還元したうえで、最後に交換様式Xにもとづくアソシエーションの実現を理念として語っている。確かに3…

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4.形式的唯物論の完成 4.4.形式的唯物論とは何か(3) 形式的唯物論は、現実を実在性=物質的形式の地平に還元する。この実在性=物質的形式の地平は、実在としての物自体ではないから、それそのものとして言及されることはないし、それそのものに何かが還元さ…

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4.形式的唯物論の完成 4.3.形式的唯物論とは何か(2) 以上に描いた哲学史を踏まえて、もう一度、柄谷行人の議論を見直してみよう。4.1.節(http://d.hatena.ne.jp/innhatrang/20070402)で検討したように、『世界共和国へ』の議論は、形式的に定義される4つの…

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4. 形式的唯物論の完成 4.2. 形式的唯物論とは何か(1) 私は前節で、本書『世界共和国へ』における柄谷の議論が、形式的唯物論とよぶべきものであることを指摘した。では、この形式的唯物論とは、どのような思想的態度であるのか。 議論の見通しをよくするた…

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4.形式的唯物論の完成 4.1.『世界共和国へ』の議論の再構成 ここで、これまでの作業を振り返っておこう。まず第2章では、『世界共和国へ』の内容を要約し、検討した。そして、本書の議論は、現実の再構成と理念の抽出の2つから構成されており、両者は現実…

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3.交換の形式的再定義 3.6. 交換様式X ここまでに、国家的主体とネーションを定義し、それにより再分配と互酬を形式的に再定義した。今回は、交換様式Xの再定義を行うが、その前に、これまで触れなかった商品交換の主体についてみておきたい。 柄谷行人は、…

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3.交換の形式的再定義 3.5.互酬の再定義:ネーション 前回の国家的主体に続き、今回はネーションを再定義する。 共同的主体における物質的形式は身体であり、身体によって規定される主体的形式が個人である。この身体は、共同的主体を構成する形式であって、…

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3.交換の形式的再定義 3.4.再分配の再定義:国民と国家 今回は、国民および国家を再定義する。前回みたように、国民、国家およびネーションは、いずれも、交換の主体としての形式である。交換の主体とは、社会的地平において社会的関係を構成する主体のこと…

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3.交換の形式的再定義 3.3.互酬と再分配の対象 前回、商品交換という形式を再定義した。では、互酬と再分配は、どのように再定義されるだろうか。 柄谷行人は、互酬も再分配も商品交換とは異なるが、互酬と再分配において交換されるのは、商品、サービスであ…

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3.交換の形式的再定義 3.2.商品交換の再定義 柄谷行人は、商品交換において交換されるのは、商品(およびサービス)と貨幣であるという。よって、ひとまず商品交換とは、商品と貨幣を対象とする交換であるということになる。 ただ、このとき、個々の商品およ…

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3.交換の形式的再定義3.1.交換の再定義 ここでは、『世界共和国へ』において、柄谷行人が用いている交換という形式を、形式的に再定義する作業を行う。最初に、一般的な交換という形式の再定義から始め、続いて4つの交換様式を再定義する。ただし、ここで行…

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2.現実の形式化 2.2.現実の形式化 以上の要約より、本書の主題は明らかとなる。それは、現在の社会は特定の交換様式によって規定されており、それを超えるためには、あらたな交換様式にもとづく社会の実現を目指さなくてはならない、というものである。他の…

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2.現実の形式化 2.1 要約 まずは『世界共和国へ』の内容を要約する。これは、本書における柄谷の理論を明確にするための作業であり、歴史的、思想史的記述については無視する。各章ごとの要約から行う。 要約:柄谷行人『世界共和国へ−資本=ネーション−国家…

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1.はじめに 柄谷行人は、たびたび思想的態度を変更し続けながらも、常に先鋭的な思考を展開してきた思想家である。しかし、ある時期を境に、その影響力は急速に低下したようにみえる。それは、柄谷がみずからトランスクリティークとよぶ思想的態度に到達した…