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3.交換の形式的再定義
3.6. 交換様式X


 ここまでに、国家的主体とネーションを定義し、それにより再分配と互酬を形式的に再定義した。今回は、交換様式Xの再定義を行うが、その前に、これまで触れなかった商品交換の主体についてみておきたい。

 柄谷行人は、生産者が生産物を消費者として買い戻す、と繰り返し述べている。これは、柄谷の議論において、生産者と消費者という形式が、主体的に規定されていることを意味する。一方で、産業資本主義においては、資本が労働力を商品として購入するという。資本とは、貨幣の蓄積であるとともに、貨幣を労働力と交換する主体的形式である。また、労働力を売るのは、生産者であり消費者であるところの、労働者という主体的形式である。すなわち、資本と労働者は、それぞれが貨幣や労働力という、商品交換の対象としての市場的物質でありながら、同時に商品交換の主体である。つまり商品交換の主体は、市場的物質に先立つ形式ではなく、市場的物質に規定される主体的形式である。

 以上より、商品交換の主体は、社会的主体における物質的形式と言明的形式が、市場的物質に規定されたものである。これを市場的主体とよぶことにする。この市場的主体の主体的再構成が、資本と労働者である。


 6.1. 市場的主体は、市場的物質に規定された社会的主体である。
 6.2. 資本と労働者は、市場的主体の主体的再構成である。


 では、交換様式Xはどのように定義されるか。交換様式Xについて、柄谷は、市場経済のうえで、国家と共同体を否定しながら、互酬を実現すると述べている。すなわち交換様式Xの主体は、国家的主体でも、共同的主体でもなく、それに先立つところの社会的主体である。

 そして交換様式Xを規定する対象は何か。柄谷は、繰り返し貨幣と資本を揚棄することを述べている。貨幣を揚棄することは、同時に商品を揚棄ことを意味する。よって交換様式Xの対象は、商品と貨幣でも、市場的物質でもない。それは市場的物質に先立つところの社会的物質である。

 以上より、交換様式Xが定義される。


 6.3.交換様式Xとは、社会的主体による、社会的物質を対象とする交換である。


 以上で、4つの交換様式、およびそれに関連する形式が、形式的に再定義されたことになる。次回からは、ここで定義した形式にもとづいて、柄谷の議論を再構成していく。
世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて (岩波新書)