サルトル関連の書籍をいくつか紹介する。もとよりすべてを網羅することは不可能だし、そのつもりもないので、たまたま手元にあるものだけをとりあげる。


サルトル 21世紀の思想家―国際シンポジウム記録論集

サルトル 21世紀の思想家―国際シンポジウム記録論集


 サルトル生誕100周年を記念して、2005年に東京で開催された国際シンポジウム「新たなサルトル像は可能か」のプロシーディング(「刊行にあたって」より)。冒頭の討議も含め、ベルナール=アンリ・レヴィの『サルトルの世紀』への言及が多い(というより、そもそも討議は同書を巡ってなされている)。忘れられたサルトルよ、もう一度、というイベントの主旨を考えれば、フランスでは話題になったらしい同書を採りあげざるを得ない事情もわからないではない。とはいえ、日本ではそれほど話題になったわけでもなく、とりたてて論ずる内容がある書物とも思われないので、それが成功しているかどうかは疑わしい。しかし、それ以上に問題だと思うのは、ここに収められている論稿のなかに、サルトルの「哲学」ないし現象学を論じているものがほとんどないことである(ざっとみたところでは、永野潤サルトルとロボット」と小松学「他者との関係としての言語」くらいか)。すでに亡きサルトルの人生を掘り返して紹介したところで、いまさらサルトル・ファンが増えるとは到底思えない。スピノザハイデガーフーコーが今でも読まれるのは、その人となりに魅力があるからではなく、その「哲学」が刺激的だからではないのか。とすれば、サルトル研究者のすべきことは、他人の描いたサルトル像の是非を問うことではなく、まず本家本元のサルトルの「哲学」を論ずることだろう。