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2.現実の形式化
2.1 要約

 まずは『世界共和国へ』の内容を要約する。これは、本書における柄谷の理論を明確にするための作業であり、歴史的、思想史的記述については無視する。各章ごとの要約から行う。


要約:柄谷行人『世界共和国へ−資本=ネーション−国家を超えて』
序 資本=ネーション=国家について

  • 資本主義のグローバリゼーションのなか、国民国家は衰退していくようにみえる。しかし、資本、ネーション、国家は互いに接合されており、簡単に否定できるものではない。本書は、資本=ネーション=国家を明らかにし、それを超える道筋を論ずる。

第Ⅰ部 交換様式

  • 交換様式には、互酬、再分配、商品交換、Xの4つがある。ネーションは互酬、国家は再分配、資本は商品交換に基づく。これに対して、アソシエーションは交換様式Xに基づく。

第Ⅱ部 世界帝国
1章 共同体と国家

  • 共同体は互酬の原理にもとづいている。一方、国家は、共同体と共同体の間に発生する。ひとつの共同体が、他の諸共同体を継続的に支配するとき、略取−再分配が成立する。この略取−再分配は、互酬の擬制である。

2章 貨幣と市場

  • 商品交換は、共同体と共同体の間で、国家と並行的に成立する。商品aと商品bが交換されるとき、商品aの価値は、商品bの使用価値によって表される。このとき、商品aは相対的価値形態、商品bは等価形態におかれる。商品bが、他のすべての商品に対して排他的に等価形態におかれるときに、一般的等価物としての貨幣となる。
  • 商人資本は貨幣→商品→貨幣+剰余価値という、貨幣の自己増殖の運動である。剰余価値は、共同体と共同体の間の価値体系の差異から生まれる。

3章 普遍宗教

  • 呪術は、人と超感性的なものとの互酬的関係である。普遍宗教は、商品交換の空間で、交換様式Xを開示する。交換様式Xとは、市場経済の上で、互酬的な共同体を回復しようとするものである。

第Ⅲ部 世界経済
1章 国家

  • 主権も市場も、一国だけで成立するものではなく、他の国家との関係によって成立する。国家主権は、暴力を独占した主権者に対して、人々が恐怖によって服従することによって生まれる。これによって、国内における暴力的な自然状態がなくなるが、他国家との間では自然状態が存続する。国家は自立的なものである。

2章 産業資本主義

  • 商人資本は、地域的に規定された共同体間の価値体系の差異から剰余価値を得る。これに対して、産業資本は自ら生産を組織し、積極的に価値体系の差異を作り出す。産業資本は、労働力を購入し、剰余価値を得る。このとき、労働者が労働力を売り、消費者として生産物を買い戻すという、広義の流通過程が、剰余価値を生み出している。産業資本は、資本が自ら作りえない、労働力と土地が商品化されることで成立した。

3章 ネーション

  • ネーションとは、商品交換によって解体された共同体の、想像的な回復である。

4章 アソシエーショニズム

  • アソシエーショニズムは、商品交換の原理が存在する空間において、国家や共同体の拘束を斥け、互酬性を高次元で取り返そうとする運動である。それは自由の互酬性を実現することである。そのためには、富の格差が生じない交換システムを実現すること、世界共和国を実現することが必要である。これは理性の統制的利用である。

第Ⅳ部 世界共和国

  • 世界帝国から世界経済への変容において、資本=ネーション=国家が形成された。資本主義のグローバリゼーションにおいて、国民国家という枠組みが弱まっているが、それで国家がなくなるわけではない。国家を揚棄するには、国家の下からの運動と上からの運動が必要であり、その結果、新たな交換様式によるアソシエーションが徐々に実現する。


 これをさらに整理し、本書全体を要約すると、このようになるだろう。

  • 交換には、互酬、再分配、商品交換、交換様式Xの4つの様式がある。これらはそれぞれ、共同体(ネーション)、国家、資本主義、アソシエーションの原理である。世界帝国においては諸国家における再分配が支配的で、商品交換は副次的である。これが、世界帝国相互の結びつきによって世界市場が形成されると、商品交換の地平で、再分配と互酬による国民国家が形成される。この資本=ネーション=国家は原理的に結びついており、いかにグローバリゼーションによって国民国家が衰退していくように見えても、それがなくなることはない。それを消滅させるには、富の格差が生じない交換システムの実現と、世界共和国の実現が必要である。そのとき、交換様式Xに基づく、アソシエーションが実現する。

世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて (岩波新書)