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3.交換の形式的再定義

3.1.交換の再定義


 ここでは、『世界共和国へ』において、柄谷行人が用いている交換という形式を、形式的に再定義する作業を行う。最初に、一般的な交換という形式の再定義から始め、続いて4つの交換様式を再定義する。ただし、ここで行う再定義は、あくまでも柄谷の議論を検証するために行うものである。すなわち、ここで再定義される交換という形式は、あくまでも柄谷が用いているそれのことであって、そのように定義される交換が、そのまま本書の議論を離れて存在するということを意味しない。

 それでは、一般的な交換という形式について検討しよう。柄谷の言う交換においては、次のことが前提されている。それは、交換する主体と対象は、特定可能であるということである。すなわち、交換する主体が何であれ、それは2者による交換であり、その2者は同一ではないものとして特定可能である。同様に、交換される対象も、何かと何かの交換であり、両者は同一ではない。そして、交換する主体と交換される対象も、特定可能である。もし、主体も対象も特定不可能である、言い換えればそれらが区別されないのであれば、交換という形式は成立しない。すなわち、交換という形式に先立って、特定可能な主体と対象という形式的地平がある。これを社会的地平と呼ぶことにしよう。すると、交換は社会的地平において成立する形式であるということができる。


 1.1. 社会的地平とは、特定可能な主体と対象という形式的地平である。


 さて、この社会的地平において、主体と主体の関係、主体と対象の関係、対象と対象の関係がありうる。交換という形式は、主体と主体の関係と主体と対象の関係によって構成される。すなわち、主体と対象の関係があって、その上で成立する主体と主体の関係である。言い換えれば、対象に規定された、主体間の関係である。これを社会的関係とよぶことにする。


 1.2. 社会的関係とは、社会的地平において、対象に規定された主体間の関係である。


 しかし、交換は、この社会的関係そのものではない。なぜなら、柄谷の言う交換においては、対象は主体に所属していなくてはならないからである。すなわち、交換という形式は、主体への対象の所属という形式とともに成立する。これを所有とよぶことにする。この所有は、社会的地平から構成される形式ではない。

 以上より、交換という形式は次のように再定義される。


 1.3. 交換とは、所有という形式とともに成立する社会的関係である。
 1.4. 社会的関係から、交換/所有という形式が構成されるには、社会的地平にはない形式が必要である。


 では、この一般的な交換という形式を基本として、どのようにして4つの交換の形式が構成されるのか。以下、そのひとつひとつを再定義していく。