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3.交換の形式的再定義
3.4.再分配の再定義:国民と国家


 今回は、国民および国家を再定義する。前回みたように、国民、国家およびネーションは、いずれも、交換の主体としての形式である。交換の主体とは、社会的地平において社会的関係を構成する主体のことである。社会的地平においては、主体も対象も特定可能である(1.1.)

 さて、商品交換に先立つ社会的物質を構成するのは、主体的形式、物質的形式、言明的形式であった。同様に、社会的地平において、言明と物質の主体的規定という形式を構成することが可能である。これを社会的主体とよぶことにする。


 4.1. 社会的主体とは、言明的形式と物質的形式の、主体的規定である。


 しかし、社会的主体は、国民でも国家でもない。国民と国家という形式が構成されるには、まず社会的主体が、社会的地平においてだけでなく社会的主体として、相互に区別されるとともに、それ自体として同一のものとして特定されなくてはならない。このとき、社会的主体における言明的形式は名づけとして機能し、物質的形式は身体として機能する。この、言明的形式の名づけという機能と、物質的形式の身体という機能が、主体的に規定された形式を共同的主体とよぶことにする。


 4.2. 共同的主体とは、言明的形式の名づけという機能と、物質的形式の身体という機能が、主体的に規定されたものである。


 この共同的主体における、名づけという言明によって規定される主体的形式、言い換えれば、名づけという行為をなす主体を、共同体とよぶ。一方、共同的主体における、身体という物質によって規定される主体的形式、言い換えれば身体をもつ主体を、個人とよぶ。すなわち、共同体と個人は、共同的主体の主体的な再構成である。


 4.3. 共同体とは、共同的主体における言明的形式を規定する主体的形式である。
 4.4. 個人とは、共同的主体における物質的形式を規定する主体的形式である。


 これより、契約という形式が構成される。契約とは、共同体と個人を形式的に規定するところの、共同的主体という形式である。あるいは、共同体と個人による、共同的主体の再構成である。


 4.5. 契約とは、共同体および個人という形式を規定する共同的主体という形式である。


 しかし、柄谷行人の言う国家と国民は、この共同体と個人ではない。国家と国民は、特定の共同体と特定の個人とが、地理的に位置づけられたものである。この地理的位置づけは、特定の位置を指しているのではなく、占拠という、ひとつの物質的規定の機能である。つまり共同的主体が、占拠によって地理的に位置づけられることにより、国家的主体という形式が構成される。そして、国家的主体の主体的形式として、国家と国民が構成される。このとき占拠は、社会的地平から構成される形式ではない。


 4.6. 国家的主体とは、共同的主体の地理的位置づけにより構成される。
 4.7. 地理的位置づけは、社会的地平から構成される形式ではない。
 4.8. 国家と国民は、共同的主体から構成される共同体と国家が、地理的位置づけによって規定されたものである。(国家と国民は、国家的主体の主体的な再構成である。)


 以上より、再分配は、以下のように形式的に再定義されることになる。


 4.9. 再分配とは、国家的主体を主体とし、貨幣と商品の物質的形式を対象とする交換である。


 商品交換における商品と貨幣の関係と同様に、再分配もまた、国民と国家の間での交換ではなく、国家的主体による交換である。